北部のお話

猿智入

 むかし、布施村に3人の娘を持った爺さまがおったと。
その爺さまがある日、畑のごぼうを掘っていただと。
汗を流しながら一生懸命掘るんだが、あまりにも畑が広いんで疲れてしもうたと。
畑の脇の木の下で、婆さまがこしらえたおむすびをほおばりながら
「あ~こんなにしんどいなら犬でも猿でもいいから誰か手伝ってくれたらうちの娘を嫁にくれてやるんだが・・・」とひとりごとを言ってそのうちに、うとうと眠ってしまったんだと。

目を覚ましたとたん、爺さまはびっくりした。
なんと目の前によ、山のようにごぼうが積まれておっただ。

そして、そのごぼうの山から1匹の猿が顔を出し、
「爺さま、この通りごぼうを全部掘ってやったぞ。爺さまはさっき、犬でも猿でも手伝ってくれたら娘をくれてやると言ったよな。約束だから娘をくれ。」
「約束通り娘をくれたら、娘のことは一生大事にする。でも約束を守らなければ仲間を呼んで、もうこの畑ではごぼうが取れねえようにするぞ。」と言っただ。
爺さまは真っ青になってよ「あんなこと言わなきゃよかった」と後悔したけんどもう後の祭りだ。
「わかった、わかった。約束通り娘をやっから、今日のばんげの後に娘を迎えに来てくんろ。」と言って、逃げるように家さ帰ったと。

 「家に帰った爺さまは、まず長女を呼んで理由(わけ)を話しただ。
長女は「猿の嫁なんて、まっぴらごめんだ」と怒って行ってしもうた。次に次女を呼んで話したが「猿の婿さまなんて、とんでもねぇ」と言って話しにならねぇ。
困り果てた爺さまが最後に三女を呼んだら「わけはわかりました。誰かが嫁に行かなければならねぇんだべ。ならおれが行くよ。」
爺さまは、ありがたいやら悲しいやら「すまねえな、すまねえな」と繰り返すばかりだったと。
今宵が最後のばんげ。ありったけのご馳走をふるまったそうだ。
夜も更ける頃、猿が娘を迎えにきたんだ。
「さぁ娘をもらいに来たぞ。嫁っこ、おらのうちさ一緒に行くべぇ」
猿はそう言って、三女の手をひき、家を出て行っただ。

 少し歩くと池のほとりに出たんだ。池のふちに咲いた桜が月灯りに照らされてそれはきれいだったと。
「婿どの、婿どの、おらぁ花嫁衣装も用意する暇がなかっただ。せめてあの桜を髪に飾りたいけんど、おらには取れねぇ。 婿どの、木登りができるなら、あの桜を取ってきてくれねぇか。」
そう言われた猿は可愛いお嫁さんの願いとあって「お安いご用だ」と言って自慢げにスルスルと桜の木に登っただよ。
「どの桜だ?」
「もっと上の、もっと枝先の桜だよ」と、娘は池の上に張り出した桜の花を指さしただ。

 「よしよし、この桜だな」と猿が桜の枝をつかんだとたん、もう片方の手で自分を支えていた枝がポキッと折れて、桜もろとも池の中に落ちてしまっただよ。
「うわぁブクブク、おらはブクブク、泳げねぇブクブク」猿はとうとう池の中に沈んでいってしまったと。

それを見届けた娘は「お猿さん、ごめんな」と手を合わせ、家に帰り家族みんなで喜んだそうだ。

このお話しの舞台


参考資料