南部のお話

念仏塚

 むかし、藤心村におともの者をつれた、お坊さんが通りかかりました。とてもりっぱなお坊さんでしたが、顔は悲しそうに沈んでいました。

 それは、はやり病いがおこっていて、村の人々がたいそう苦しんでいたからです。お坊さんはしばらく村にとどまって、おともの者と一心にお経をとなえました。しかし、はやり病いは、ますますふえるばかりです。

「わしの祈りも通じないのか。村の衆がこんなにも苦しんでおるというのに。」

 お坊さんは、静かに念仏をとなえられる場所を求めて、村じゅう歩きました。そして、村はずれまで来て、静かなこんもりした森を、念仏の場所に選びました。一心不乱に念仏をとなえるために、おともの者に大きな穴を掘らせ、静かに穴の中に入り念仏をとなえ始めました。

 やがて、穴はお坊さんの言いつけどおりじょうずにふたをかぶせられ、小さな竹筒が空気穴として用意されました。

 おともの者も穴のまわりで念仏をとなえました。その竹筒からは、お経の声と鈴の音が七日七晩聞こえました。やがて、はやり病いは下火になって、鈴の音もお経の声もぴたりとやんでしまいました。

 その後、村人は、ていちょうにお坊さんをほうむってあげ、そこに高い塚をこしらえました。

 それからというもの、村に、はやり病いがおこると、念仏塚のまわりからはお経と鈴の音が聞こえたそうです。

このお話しの舞台


参考資料