北部のお話

目つぶしの絵馬

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 ずうっと昔、布施の弁天様の近くのお百姓さんたちは、たびたび何ものかに畑をあらされてたいそう困っておりました。荒らされた翌朝、畑に行ってみるときまって馬の足跡が残っているのでした。その足跡をたどって弁天様の近くまでくると、ぷっつりと足跡がなくなっているのです。

 そこで、お百姓さんたちは、何としてもその馬をつかまえて、畑を荒らすのをやめさせようと交代で、一晩中見はりをすることになりました。そしてじっと息をころして待っていました。

「もう今夜は、こねえんじゃねえのか。」

と、話しはじめたとたん、二頭の馬がどこからともなく現れて、畑を荒らしているではありませんか。かすかな月あかりの中で見えるその馬はたいそうりっぱで、毛なみの良さがだれにでも一目でわかるほどでした。

 二頭の馬は、夜の明けるまで畑の作物を食い荒らし、走り回り、はね回っておりました。そして、空が白みはじめると、弁天様の方へ向かって帰りはじめました。

 大ぜいで後をつけました。何回も何回もお百姓さんたちは、その馬の姿を見失いましたが、ついに弁天様のそば近くで見はっていたお百姓さんが、その不思議な光景を見てしまったのです。急に体が小さくなりはじめ、空中を走る馬の姿を・・・・・・。そしてその馬が、弁天様の本堂にかかげてある額の中に入っていくのを・・・・・・。

 驚いたお百姓さんたちは、おそるおそる額の絵を見ました。するとどうでしょう、馬の体から朝つゆがにじみでているではありませんか。

 それを聞いた弁天様の住職さんは、さっそく本堂にある額の絵馬がぬけ出せないようにと、その二頭の絵馬の目をぬりつぶしてしまいました。それからというものは、農作物の被害もなくなり、お百姓さんたちは、たいそう喜んだということです。

 今でも、布施の弁天様の本堂には絵馬がありますが、右側にはおとなしい馬、左側には暴れ馬が描かれています。この二頭の馬に目がないのは、そのためだと言い伝えられています。

このお話しの舞台


参考資料