南部のお話

魔よけ小僧

まだ手賀沼で、高野山や中里、日秀(現在の我孫子市)と岩井や手賀を結ぶ手こぎの渡し舟が活躍していた頃のお話しです。

この渡し舟、 行商や成田山詣りの 人 など、毎日多くの人 が利用し、たいそうにぎわっており ました。 ふだんはなんということもないよくある渡し舟だったのですが、お盆近くになると時々不思 議なことがおきていたのです。

暑い日差しが、ようやく和らいできたころ舟は 沼の中頃にさしかかりました。
その時ふと船首を見ると、素っ裸にツルツル頭の小僧が舟っぺりのところにけつっぺたおろして、悲しそうな表情で沼を見つめています。
さきほどまで舟には乗っていなかったのですから、他の客は大騒ぎ。
「あの小僧はなんだ」
「なんで素っ裸なんだ」
ひとりの客が勇気をふりしぼって「いしゃあどっから来ただい?」と尋ねますが、小僧は一切答えず、ただただ悲しそうに沼を見つめるだけです。
すると船頭が静かな声でこたえました。
「ありゃあ魔よけ小僧と言ってな、昔からいる縁起のいいものだ。舟に悪さもしねえ。」
「むしろ、あれが出た舟は無事に沼(かわ )向こうにつけるんだ。だからすてておけ。」
そうして船着き場につく頃には、いつの間にか小僧の姿は消えてしまうのです。

いつの頃からか、この小僧のことを「魔よけ小僧」「魔よけ小坊主」などと呼ぶようになり「沼で亡くなった子めらの魂だんべ」と噂されるようになりました。

このお話しの舞台


参考資料