中部のお話

木(こ)びきの爺さまとカッパ小僧

むかしから手賀沼には大うなぎやカッパの話しがうんとあるだ。


ある日、こそ雨(小雨)の降る薄ぐれぇ日のこんだ。
木びきの爺さまが、今日はおてんとう様も顔見せねえし、木びきをやめて魚でも釣んべっていって、戸張っ川(いまの大津川)に釣り竿を何本かたてたんだと。戸張っ川は手賀沼が近いこともあって、魚がいっぺぇ釣れんだよ。

ちょうど魚が3匹ばかし釣れたころ、川向こうの田んぼをなんの気なしにひょいと見たら、えらいこった。カッパ小僧と目が合ってしまっただと。
カッパ小僧はなりは小さくてもよ、人だけじゃねぇ、いかい(大きい)馬でも簡単に水ん中引きずり込むんだ。つかまったら、もうさいごよ。そのカッパ小僧が田んぼのクロ(畔)んところに手を着いて、こっちをじぃーっと見てんだから、そりゃえらいこった。
木びきの爺さまは、一目散に逃げたい気持ちをおさえて、カッパ小僧をにらみながら一本ずつ釣り竿を上げながら、あとずさりしただ。
そんで、カッパ小僧のやつがひょいとわき見をしたすきに、ほれ、今だ!とばかりに釣り竿かかえて走って逃げたんだと。
あわてて家にけぇった木びきの爺さまは、気がついた。釣った魚を入れたビクを置いてきてしまったんだな。とはいえ、日も暮れてきて暗くなると、もうあの場所には戻れねぇ。

そんで次の日、まわりをきょろきょろ見ながら、昨日の戸張っ川に戻ってみると、あのビクがそのまま置いてあったんだと。あれぇ、カッパ小僧のやつ持っていかなかったのか、と小さい声でつぶやきながらビクを持ち上げると、中に入れてあったはずの魚の代わりに、木の葉が3枚入ってたんだと。


釣った魚を持っていかれたのは惜しいけど、命助かったんだから、ぜいたくは言えねぇよなあ。

このお話しの舞台


参考資料