もんは、きょうも田んぼひとつはさんだ小高い丘のふもとを見ています。
「おっかあ。ほら。ほら。」
もんの指さす方には、夕ごはんの支度をしているのでしょうか。あっちの家からも、こっちの家からもけむりの出ているのが見えます。
もんは五歳。おっかあに連れられて毎日田や畑で暮らしているのです。そんなもんの楽しみは、毎日ふもとの家々から出るけむりを見ることだったのです。見ていると、もんはとても安心できるのです。
そんなある日、いつものように小高い丘を見ていると、小さなともしびが三つ四つ見えました。よくよく見ると十も二十もありました。少し赤っぽく、とてもきれいでした。
しばらくすると、ともしびは、何やら動いているようです。あっちに行ったり、こっちに来たりしてもんの心はうきうきしてきました。
「おっかあ。ほら、ほら。」
「うん。また、けむかい。」
「うーんほら、ほら。」
おっかあは、夕はんの支度をやめて、もんの方に来ました。
「ああ、もん。きれいだ。きれいだ。今は六月だもの、田んぼの稲っこも喜んでんべな。」
もんには、なんのことだか全然わかりません。ただきれいだと言うところだけわかるのです。そんなもんを、おっかあはひざにだいて話してくれるのです。
「もん。あれはな。狐のしゅうげん〈結婚式〉だ。おめでてえことなんだよ。狐たちが、うんまいごっそういっぺ作って、うれしいんだべな。ほれ、ほれ、ちゃんと二列になって動き出したんべ。あれはな、よめっこがむこのところへ今から行くんだ。あのよめっこもきれいなんだ。」
「ふーん。おっかあ。そんでー。」
「きれいなよめっこの着物が、よごれちゃなんねー。めでてえことに雨がふっちゃなんねえって、狐らは、雨がふる前の日にしゅうげんをやってしまうんだ。なあ、もん。あしたは雨だよ。雨ふっと田んぼの稲っこもどんどんでっかくなって、いっぺ米ができるんだ。そしたら、もんにもきれいな着物でも買ってやっかんな。」
「おっかあ。狐のよめっこの着物がいいな。赤くてきれえだもの」
もんは、おっかあのひざの上ですやすやねむってしまいました。
そして、時々顔をほころばせました。きっと何かいい夢でも見ているのでしょう。
次の日は、雨が降りました。田んぼには水が広がり、稲たちは、皆すじをぴーんとのばし、元気に話し合っているようです。
やがて、大きくなったもんは、おっかあと同じ野良仕事をするようになると、ちょいちょい小高い丘の方を見るのでした。
「ああ、きょうは狐の嫁どりがねえ。明日は晴れだな。それじゃ明日は、いもほりでもすっか。」
「ああ、きょうは狐の嫁入りがあった。明日は雨だな。まてや納屋(なや)で縄ないでもすっか。」