むかし、葉山の里には、雉子がたくさんいました。またどの農家でもにわとりをたくさん飼っていて、卵を産ませていました。
おとらばあさんの家の広い庭も、毎日、朝から、ポッポッと、えさをついばむにわとりで、いっぱいでした。そこへ、いつのころからか裏山にいる雉子たちが仲間入りしてにわとりといっしょに、楽しい一日を過ごすのでした。
庭のそばがこいの日なたで、縫いものをしている留守番のおとらばあさんが、ちょっと立ってお茶道具を取りに行くときでも、その後を追いかけて、
「コッコッコッコッ」
と、鳥たちは帯のように連なって尾をふりふりついてきます。えさを放ってやると、みんなで羽を広げて、“バタバタバタバタ”と、群がって行っては、それをついばむのです。
そんな庭先で、さっきから、隣のじいさんは、にわとりと一緒に遊ぶ裏山の雉子をねらってそうっと木かげに腰をかがめておりました。
隣のじいさんは、この辺きっての鉄砲うちの名人でした。そんな腕ききのじいさんも、未だかって一度も、この庭で遊ぶ雉子をうてたことがありません。
きょうも、おばあさんに、お茶を入れてもらっても、飲むようすもなく鉄砲をかまえています。でも、雉子とにわとり、にわとりと雉子、背中にのったり、えさを取り合ったり。まるで同じ仲間同士の親子のようにみえます。
引き金を引こうとすると、手がふるえてしまいます。ふるえたというよりどうしても、手元が、ゆるんでしまうのです。
「やっぱりだめだ。」
「あの姿を見ちゃあ、うてねえなあ。」
じいさんは、かたわらの畑の菜っぱを抜いては、にわとりや雉子に食べさせてやりました。
「まったく、かわいいもんだ。これじゃ、おれもまんまにならねえ。仕事がえでもすっか。」
といって、腰を上げました。
鎮守(ちんじゅ)の森に、まっかな夕日が沈みかけると、雉子たちは、またつれだって、ねぐらに帰っていきました。