南部のお話

カラス天狗と祭り見物

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その昔、増尾(ますお)村にひとりで暮らしているおばあさんがいました。
このおばあさん、遠い遠い西の方で30年にいっぺんあるお祭りに行きたくて行きたくて仕方ありません。
ところがおばあさんは足が悪く、村人からも「ばぁよ、その足じゃ長旅は無理だんべ」と言われていたのです。
あきらめきれないおばあさんは「あ~祭りさ行きてぇのに足さ痛くて行かれねぇ」と毎日ぼやいていました。

祭りの日の朝、どこからともなく小さい坊主があらわれ、「ばぁさま、そんなに祭りさ行きてぇのか?」と聞きました。
「もちろん行きてぇがおれは足が痛くて行かれねぇ」
「そんならおらがぶって(負ぶって)やんべ。けんど早く走っからばぁさまがおったまげるといけねぇ。目さつぶっててくろ。」といっておばあさんを負ぶったとたん、あっという間についてしまいました。
おかげでおばあさんは久しぶりにお祭りを楽しむことができました。


その日の夜、おばあさんが小坊主に「おれん家に泊まってけ」とすすめました。
小坊主は「なら寝かせてもらうがおれが寝る奥の八畳間のしょうじは絶対に開けんなよ。開けなけりゃ明日もまた祭りさ連れて行ってやっかんな。」
そうしておばあさんと小坊主はしょうじをへだてて寝ることになりました。

どれくらい時間がたったでしょう。おばあさんはお祭りのこうふんが冷めずに眠れないでおりました。するとしょうじの向こうから「ガガガ」「ゴゴゴ」と地鳴りのようないびきが聞こえてきました。気になって気になって仕方ないおばあさんは、ちょっとだけ、と思いしょうじを少しだけ開けました。
すると、八畳間いっぱいに黒い羽根をひろげたカラス天狗が寝ているではありませんか。たまげたおばあさんが「ひゃ~」と大きな声を出して尻もちをつくと、飛びおきたカラス天狗は「おれの正体見たな!」とさけびながら、バサァ~っと飛び立ち、忠左衛門(ちゅうぜむ)さんの屋しきの一番高い杉の木のてっぺんめがけて飛んで行ってしまいました。
次の日はもちろん、おばあさんはお祭りには行かれなかったということです。

このお話しの舞台


参考資料