南部のお話

常使えのむじな退治

むかしむかし、増尾村の話しだ。
幸谷城っていう城あとの南側、根古屋(ねごや)の屋しきのさらに南側に「ひらが」という大きな屋しきがあっただよ。
そのお屋しきには「常使え=じょうづけえ」と呼ばれる小間づかいのじぃさまがいただ。
なにか用事があるときは、お屋しきの主人が庭に出て「けっぽ」というほら貝を持ってボーボーって吹くと、そのじぃさまが飛んでくるだよ。

ある日の夜中、ボーボーって音がしたから、じぃさまは目をさまして急いで外に出ただ。
こんなおそくになんの用事だんべ、と思いながら
じぃさまは暗い道をお屋しきにむかって走りだしただ。
すると、じぃさまの前を誰かが走ってるだと。
“ガサーガサー”とじぃさまに砂をかけながらよ。
「はは~これは、ムジナのやつが悪さしてんだんべ」
寝ていたところをおこされたじぃさまは、こんちくしょう、と思っただと。
すると知ってる人のこわいろで「じぃ、ぶってくろ(おぶってくれ)」っていうだと。
「はいよ」とじぃさまはムジナをおぶって、お屋しきまで走っただと。
お屋しきの近くまでくると
「じぃ、おりらぁ(降りるよ)」
「いいよ、おんなくても(降りなくても)」
っていって、じぃは背中のムジナをにげらんねぇようにガッチリ押さえただ。

「こいつ、いつもおれのことばかにして、もう今日はゆるさねえぞ」っていってお屋しきに連れていって、とうとうムジナ汁にしちまったんだと。


増尾村では、鷲山(わしやま)、おわしの坂、いろんなところでムジナが村人を化かしたっていうし、しろべえ坂や幸谷城があった中郷のきつね山には狐がいっぺぇいたって話しだ。
おめぇも化かされねぇように気ぃつけな。

このお話しの舞台


参考資料