中部のお話

法林寺の大いちょう

 越後の国(今の新潟県)にひとりの尼さんが住んでいました。毎日、お寺でお経をあげたり、秋になると寺にある大きないちょうの木の落葉をはいたりして暮らしていました。

 ある年の秋も深まった頃、この尼さんが、たくはつの旅に出ることを思いたちました。旅の準備をして出かけようと庭におり立った時、黄色いいちょうの実が落葉にまじっているのが目につきました。

「そうじゃ。このいちょうの実を持って、たくはつに行こう。何かの時に役に立つかもしれない。」

 尼さんは、いちょうの実を布の袋に数つぶ入れて、長い旅に出ました。

 何日も何日もたくはつの旅が続き、寒い北風が吹くころ、尼さんは、ある小さな村にさしかかりました。夜もふけて、ひもじさも増してきた尼さんは、名戸ヶ谷村の法林寺に行き、今晩ひと晩だけ、泊めてくれるように頼みました。寺の人は、気持ちよくこの尼さんを家の中に招き入れ、暖かいごはんを食べさせ、ひと晩泊めてあげました。

 あくる日、尼さんは、

「そうじゃ。ここにいちょうの実がある。これを泊めてもらったお礼にあげていこう。」

といって、寺の庭から拾ってきた、いちょうの実をそっくりこの寺の人にさし出し、たくはつに旅だっていきました。

 いちょうの実をもらった寺の人は、さっそくこの実を庭にまきました。やがて、芽が出て、少しずつ、少しずついちょうはのびていきました。寺に住む人がかわっても、いちょうの木は大切に育てられました。

 年月がたち、いちょうは、りっぱな木に生長しました。秋になると、寺の庭は、黄色の落葉でうずまりました。村の子どもたちは、いちょうの落葉を拾っては、つなぎ合わせて、かんむりを作ったり、首かざりをつくったりして遊びました。

 ある年、このあたり一帯が大ききんに見まれました。村には、食べる物がなくなり、おなかのすいている子どもたちは遊ぶ元気もなく寺の庭に、ぼんやりすわりこんでいました。と、ひとりの子が、いちょうの落葉の下に小さな実を見つけました。ひもじかったこどもは、急いでからを割り、中の実を食べました。それを見ていたまわりの子どもたちもみんなまねをして実を拾い、からを割っては食べました。

 こうして、うえに苦しんでいた村の人びとは、このいちょうの実のおかげでひもじさをしのぎました。それからというものは、村の人びとはますますこのいちょうの木を大切にしていったということです。

このお話しの舞台


参考資料