南部のお話

でいだらぼっち

 むかし、むかし、大昔の話です。

 ダダ、ダダ、ダダ・・・・。

 ドド、ドド、ドド・・・・。

さきほどから、不気味な音が遠くから聞こえてきて、地ひびきが続いています。

 野原にけものをとりに行った男たちも、川にすなどり(魚とり)に行った女たちも、木の実や草の根をさがしていた子どもたちも、みんな、もどってきて、大きな木の下に、おどろおどろとかたまっています。

 地ひびきは、だんだん大きくなってきました。

 ゴゴ、ゴゴ、ゴゴ・・・・。

 ヒュ、ヒュ、ヒュヒュ、ヒューーー。

 風が吹き出して、木の葉はちぎれるばかりにゆれています。

 ザザ、ザザ、ザザ、・・・・。

 ジャ、ジャ、ジャジャ、ジャーーー。

 雨が地面をたたくように降り出しました。みんな抱き合い、頭を寄せ合ってこわさをこらえています。

 ダダ、ダダ、ドドドド、

 ゴゴゴゴ、ヒュ、ヒュ、ヒューーー。

 ザザ、ザザ、

 ジャジャ、ジャジャ。

ウォン、ウォン、

 ウォン、ウォン。

「見ちゃなんねえ。見ちゃなんねえ。目をあくんぢゃねえ。」

 村の長老は、唱えごとのようにつぶやき続けていました。

 急に静かになって、みんな目を開けました。

 空は明るくなって陽がさしはじめました。ぬれ色の木や草も踊っているようです。けものたちも高い笑い声をまきちらしています。小鳥たちの合奏も始まりました。

「たしかになにかが通っていった。」

「そりゃ、悪魔だんべ。」

「そんなこたあねえ、福の神だ。」

「たしかに足を見た。まるで山が落ちてきたみてえだった。」

「目をあけてそっと見たら、たしかに東の方へいったど。」

 こんな話が、どこへ行っても聞かれました。

「それは、でいだらぼっちって、いうだとさ。」

村の長老はゆっくりといいました。 誰が、どこで、誰に聞いてきたのかそれはいいませんでした。

「富士山のふもとの人たちも見てるって。」

「何でも、筑波下(つくばした)の人たちも見たって。」

 でいだらぼっちは、きっと富士山をまたぎ、関東平野を横切って、筑波山の方へ歩いて行ったのかも知れません。

 逆井(さかさい)の足跡も、酒井根(さかいね)や高田(たかだ)の足跡も、みんなその時のものかな。

このお話しの舞台


参考資料