南部のお話

バクチぶちのシー

いまの土小学校の裏手に、シーという人がおっただ。名前はなんだったかな、とにかく村の衆は名前で呼ばずにシーと呼んでおった。シーは百姓仕事はやらねぇ。見世物小屋を開いたり、あとは三度の飯より大好きなバクチをしとったな。


バクチぶち(博奕打ち)同士のけんかで、他の子分衆といっしょに、なぐり込みに行くことになった日のこんだ。その日の夜、親分の家の庭に、子分たちがぞろぞろと集まっただよ。
庭で火をたいてよ、そん中にイモを入れて焼くだよ。そいでな、焼けたいも一本を、両方から二人がくわえて、パクパクと食ってゆくだ。これがこのあたりのバクチぶちの決死の覚悟を表わすならわしだな。酒なんぞ飲んだ日にゃあ酔っぱらちまって喧嘩にならねぇからな。

さて、それでだ、なぐり込みのチャンバラは勝負がつかずに引き分けになったが、シーは、どことやらを、けがしてな、六尺ふんどしひっさいて、包帯にしたんだと。らっちもねえ(あられもない)格好で、暗い夜道を一人とぼとぼ帰って来る途中、橋の上で、金襴緞子の花嫁ごがうずくまってたで、「どうしたい」って聞いたらよ、「あい、おら、嫁入ったところから、ひま出されただ。おらにどんな落ち度があったのか、思案しながらここまでもどって来ただが、しゃくにさわってなんねえから、飯食ってるだい」っていうだよ。
夜の夜中に橋の上で花嫁が飯食ってるなんて、そんなことあるわけねぇべ。そっただこと考えりゃわかるだろうに、シーったら、「そいじゃ、おらも相伴すんべえ」って、一緒んなって、わっぱ飯(杉板製の、ふた付き楕円形弁当)食ってるうちに、夜が明けてきただよ。

そんで気がつくと、シーがひとりで、いも畑のまん中でよ、六尺ふんどしの端っこくわえて、横かららっちもねえやつ、たらんと見せながら「うめえ、うめえ」って言ってたんだとよ。
シーのやつ、きっとむじなにいっぺぇ食わされたんだなぁ。


そんなことがあった後もよ、シーはいつもふんどし姿で、村内の大きな屋敷を回っては小遣いをせびったりして暮らしたってぇ話しだ。

このお話しの舞台


参考資料