北部のお話

きつねのお風呂

むかし、初石村(現・ 流山市)から高田村に嫁入りがあったんだと。
嫁入りがある時は、もらう方のむこさんと村の衆が花嫁の家さ迎えに行くんだよ。
その日も初石まで嫁っこさ迎えに行って、その帰り道のこんだ。
その頃、初石から高田に行くには、人家のねぇ原っぱや山みてえなとこ抜けなきゃいけなくて、やっとこさ人が通れるくれえのところも多かったんだ。
初石を出た花嫁行列が高田原(現・ 十余二)さ過ぎて山ん中入ってよ
そろそろ見えるはずの高田村がいつになっても見えねぇ。
あせって早足で先を急ぐが、どうも同じ道をなんべんもなんべんも、ぐるぐる回ってたんだと。
ただでさえあかしもねえ 淋しい山道みてえなとこだ、日もくれてきて嫁さんもむこさんも皆んなえれぇ疲れてしまったんだと。
いっぽう高田村のむこさんの家では、嫁っこが来るのを今か今かと待ってたけんどいつになっても来ねえもんだから、心配になって村のもんが探しに行ったんだと。
したっけ高田原に行く途中の山道の大きな木の下で、ぐったりとけつっぺたおろした花嫁やむこを見つけたんだと。
それからは村のもんの案内で、やっとこさ高田村に着いただ。
心配して待ってた皆んなは「こりゃあきつねにだまされたにちげえねえ」って大騒ぎだ。

そんなことがあったけんど、無事に祝言も終わってよ、今度は嫁っこの爺さまが初石に帰る番だ。
なんとか山道も抜けて高田原 の原っぱを急いで歩いてっと、「じいさん、じいさん」って声がする。
振り向くと、きれいな娘っこが微笑みながら立ってただと。
そんで「おらとこの風呂はいい風呂だよ、入っていきなよ」って。
まっくらやみのこんな淋しいとこに若え娘がいるわけねえのに酔っぱらってた爺さまはいい気になって、娘っこの家に連れていかれてよ風呂に入ったんだと。
湯舟ん中でいい気持ちになって、うつらうつらしたんだな。
しばらくすっと、今度は寒くなって目えさまして、おったまげた。
風呂さ入ってると思ってたのに、気がついたら、まわりは一面真っ白な綿畑だったんだと。
爺さまはあわてて、ふんどしと着物をつかんで素っ裸のまんま一目散に初石に帰った、ってえ話しだ。

このお話しの舞台