南部のお話

空を飛んだ観音さま

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むかし布瀬(ふぜ)村に与右衛門(ようえもん)という人がいました。家の近くに井戸があったのですが、ある日、その井戸から光かがやく一寸八分(いっすんはちぶ)ほどの観音さまが見つかりました。
与右衛門(ようえもん)は「これはありがてぇ、ありがてぇ」といって、近くの仁右衛門(にうえもん)が持っていた堂屋敷(どうやしき)と呼ばれる森の中に小さなお堂をたてて観音さまをまつりました。

この観音さまは安産のご利やくがあり、遠くからもおまいりにくる人がいるほどでした。
ところがある日、お堂が火事になってしまい観音さまが行方不明になってしまったのです。
あるものは「観音さまは与右衛門(ようえもん)の家の北東の方角に飛んでいったぞ」といいましたが、そのゆくえは全くわかりませんでした。


5年ほどたち、もうあきらめてしまったころ、谷中(やなか)村(現茨城県稲敷市)の武左衛門(ぶざえもん)という人から連絡があったので、たずねて話しを聞くと
「5年前のある日のこと、いきなり部屋に光りかがやく観音さまが飛びこんできただよ。その後ありがたくまつっていたが、布瀬(ふぜ)村で観音さまが行方不明になったと聞いて知らせただ。」
というのです。与右衛門(ようえもん)がその観音さまを見たところ、まちがいありません。あの井戸から見つかった観音さまです。

「元は布瀬(ふぜ)村の観音さま。どうぞ持ちけぇって、また布瀬(ふぜ)村でおまつりしてあげてくだせぇ。」

「それはありがてぇ。村のしゅうもたいそう喜ぶにちげぇねえ。」

布瀬(ふぜ)村ではお堂を新しくたてかえ、ふたたび観音さまをおまつりしました。
その後二度と観音さまは空を飛ばなかったそうです。
現在、お堂の中にはおすわりになった観音像をおまつりしてありますが空を飛んだ観音さまは、そのおすわりになった観音像の中におさめられています。

このお話しの舞台


参考資料