むかし、むかし、増尾村に「鷲山」という所がありました。ぶなや、ならや、しいの木が茂り、たぬきやきつねの住む穴が、あちこちにありました。野うさぎが走り回り、秋になると、落ち葉の間にどんぐりの実がばらまかれたように落ちていました。
そこに、一軒の古びた山小屋がありました。おもという女の子と母親が二人で住んでいました。
ある日、母親が夕ごはんのしたくをしていると、だれかが、
「おっかあー。おものおっかあ。」
とよびます。はてさて、だれがよぶのじゃろうと、おっかあが立ち上がろうとしたところ、背中が急に重くなりました。
ふり返ると、なんと、いたずらそうな目をしたむじなが、背中におぶさっていました。おっかあが、おどろいているうちに、いつの間にかむじなは、逃げていってしまいました。
それから、二、三日後、おっかあが、小屋のまわりでたき木を拾っていると、
「おっかあ。おものおっかあ。」
という声がします。
「また来たな。このいたずらむじなめ。」
と思っているうちに背中が重くなり、この前のむじなが背中におぶさっていました。
こういうことが、その後何回か続きました。
そこで、ある日、おっかあは、
「どうして、そんなに、わしの背中におぶさってくるのかい。」
とむじなにたずねました。
「だって、おっかあの背中、とってもあったかいんだもの。おっかあのあったかい背中ですやすやねむっているおものように、一度でよいから、おぶさってみたかったからさ。」
とむじなは、しんみりと答えました。
今まで、いたずらむじなと思い込んでいたおっかあは、むじなが急にかわいらしく思えてきて、
「それじゃ、わしの背中でゆっくりねむりな。」
とむじなに背を向けました。
そこでむじなは、あったかいおっかあの背におぶさって、気持ちよくねむりました。
しばらくたって、目をさましたむじなは、
「おっかあ、きょうは、どうもありがとう。この親切はぜったい忘れないよ。」
と言って帰っていきました。
それからというもの、おっかあとおもの家には、春になるとたけのこやわらびが、そして秋には、まつたけやくりが、そっと置かれていくようになりました。おっかあは、
「あのむじなが、お礼にもってきたんだな。」
と腰をさすりながら、つぶやいていました。